ぶろん氏は語る

僕達は独りじゃない

置き去りの子供


テスト帰りの電車に揺られている。窓の外は鮮やかな橙、黄金とも白とも言える太陽が沈む様が、散り際の花のような潔さと切なさを思わせる。ガラス越しに伝わる熱に、思わず俯いてしまう。もうすぐ、冷たい夜がやってくるのだ。

がたんがたん、という、線路を走る音だけが、鼓膜に当たる。子供たちはとっくに家についている時間帯だけれど、大人たちの仕事が終わるタイミングではなく、車両には座席を埋め尽くすだけの人もおらず、ドアの傍らに立っているのは私ぐらいのものだった。乗り換える駅までは、まだ遠い。

冷たい夜が、やってくる――そう考えただけで、勝手に心が泥濘に沈んでいく。だぷりと音を立てて表面に落ち、あとはただ静かに、呑まれていく。成す術も無く、立ち尽くす――そう、私は今、ここに立ち尽くしているのだった。外の橙は無言で私を包んでいるけれど、それももうすぐ、沈んでいくのだと思うと、その場で、泣きたい気持ちに駆られた。

家に帰ったらどうしよう、挨拶はあるのだろうか、ただいまやおかえりは交わせるのか、晩御飯はあるのだろうか、テストの出来を訊ねられたらどう答えればいいのだろう――そんな思いばかりが頭の中で渦巻いている。居場所が無い訳ではないのだろうが、私はとても、不安でならない。何も信ずることなどできないけれども、とても寂しい気持ちだった。家に帰りたくない、と思う。このまま熱に溶かされるように、消えてしまえたら、と考える。

それでも非情に時間は過ぎ行くもので、乗換駅の名前を告げるアナウンスが頭に飛び込んできた。仕方が無い、諦めよう、そんな言葉を連ねながら、自分が何を諦めたのかも解らないまま、停まった電車の、開いたドアから降りた。同じような人の足音を掻き消すように、階段をふたつ、かたかたと音を立てながら降りて、家の最寄り駅へ向かう電車に乗り込んだ。空いている、車両の真ん中の座席に座る。照明が酷く眩しく、やっぱり私は俯いたままで、床をぼんやりと眺めている。勉強による疲労なのか、頭が重くて堪らない。そうこうしているうちに瞼が下りて、私の意識はとうとう床の下に溶け出てしまったのだった。